《Act.14 手にしたものは(凱斗side)》


雨の降る、薄暗い朝の光の中で、穏やかな寝息を立てている響介を見つめる。
しっとりと吸い付くような、キメの細かい肌を撫でると、微かに身動ぎをして、「ん…」と声を出した。
時計の針は8時を指している。
目が覚めるのはまだ先だな…。
昨日は、興奮のあまり手加減出来なかったから、かなり体力を消耗したに違いない。
感じまくる響介に煽られて、何とかき止めていた欲望が爆発した。馬鹿の一つ覚えのように前立腺を攻め続け、気絶させてしまった。
起きたら怖いな…。

そっと、涙で紅く腫れた目蓋に唇を落とす。

それにしても、洸司の奴…、俺の気持ちに気付いてる筈なのに、響介を呑みに誘うとは…。
嫉妬でイライラする。響介が洸司を信頼してるっぽいのにも腹が立つ。あのタカって男も殺してやりたいぐらいムカつくが、それよりも洸司が危ない。
アイツは俺の親友にして、最強のライバルだ。
俺とは真逆で、美形だがいかつい見た目で、それとは裏腹に中身は優しく、人の気持ちをよく察して的確な対応をする。ちょっとでも仲良くなると、そのギャップに女は(男も)ハマる。
一方、俺の外見は万人に受けるが、ちょっとでも面倒臭くなると、優しくするのを放棄するから、俺に見切りをつけた女は皆、洸司に流れて行く。
そして洸司はこれ幸いと、傷付いた女の心を癒すかのように次々と喰いまくる。
しかも、ていよくヤられただけだと気付かない馬鹿女は、そのまま洸司になついてしまうのだ。
だから危ない。傷付いた響介が洸司にすがり付いたら、横からかっさらわれてしまうかもしれない。
洸司はバイだし、何より響介は洸司の好みのタイプだろう。華奢で女顔、不器用で純粋、しかもめちゃくちゃ感度も良いし、はっきり言って名器だ。一回でも響介とヤったら誰でもハマる。
まぁ、まさか俺が本気だって知ったら手は出さないだろうけど…。もしかしたら響介が洸司を好きになってしまうかも知れない。
…そんなことは許せない。

どうして響介を愛したのか、自分でも解らない。
初めて目にした瞬間、美しいと思い、出逢うべくして出逢ったのだと思った。
そして欲しいと…、この男の全てが欲しいと思った。
その欲望は、当たり前かのように俺を占領し、凍える心に火を灯した。
けれど、それは果てしない寂寥せきりょう感と飢餓きが感を産み出し、閉じ込めていた忌々いまいましい記憶の扉を開けた。

響介…。
俺の心が選んだ人。
涙が出るほど愛おしい。
微かに聞こえる寝息も、震える睫毛まつげも、穏やかに上下する胸も…。
何もかもを愛している。
強引に、躰を開かせようとして傷付けた俺を、好きだと言ってくれた…。
その言葉を耳にして、震えが来るほど胸が高鳴り、かつて無いほどの幸福感に包まれた。

でも、その甘い言葉を受け入れる事は出来ない。

その心に手を伸ばしてしまったら…
その言葉にすがり付いてしまったら…
きっと、俺はお前を壊してしまう。

俺の気持ちに応えるな。決して愛するな。
響介を守るよ。
だから俺はお前を傷つけ、はずかしめ、おとしめる。
俺への気持ちが粉々に砕け散るようにと…。

けれど、果たしてそれが出来るだろうか?
その柔らかな頬に触れるだけで、涙が出る程の切なさを感じるこの俺に。
その透き通る瞳に見つめられるだけで、痺れる程の喜びを感じるこの俺に。

今は無理矢理に躰を繋げる事でしか、嫌われる方法を思い付かない。
俺を感じて欲しい。俺だけが全てだと。
嫌わないでくれ。愛してくれ。俺のものだけでいてくれ。
この部屋に閉じ込めて、誰にも見せたくない。お前の触れるシーツや、吸い込む空気にさえ激しく嫉妬を覚える。

愛して欲しいという想いと
拒絶して欲しいという想いと
矛盾する想いが俺の中で悲痛な叫びをあげる。
相反する二つの感情が過去の傷を深く抉る。


どうしてなんだ…
母さん…
愛していると言っていたのに。



俺がこの暗い愛で手にしたものは、滑らかな肌を持つ美しい男の肉体と、出口を求めて猛り狂うどす黒い独占欲だけだった。

どこか遠くで雷鳴がとどろく。
それはまるで俺の正気をおくとむらいの鐘のように聞こえた。


響介
愛している
永遠に俺のものでいてくれ…


永遠に………




Chapter 1 END

To be continued…




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