《act.1 めぐい(凱斗かいとside)》


『マジ、ヤりてぇ―――』
一目見て、そう思った男はソイツが初めてだった…。


 俺は基本的にストレートだ。…と、信じていたが、そのセクシャリティーは、あるヤツを目の前にしてから、突き崩されようとしている。

 「なぁ、凱斗…なんか、今日のオマエ暗くね?」
バイト先の店長がそう言った。
確かに、俺が暗い顔をしているのは気のせいじゃないだろう。俺はマジで後悔してる。
…原因?
ハハハ…ほんと、笑いも乾くって。

………やってしまった。

アイツで抜いてしまった…。俺は昨日ほど激しい悔恨の念に苛まれた事はねぇよ。
 昨日、ダチが出るというライヴを初めて聴きに行って、そこでアイツを見つけた。わざわざ呼んでもらったにも関わらず、そのダチなんて眼中になく、ただただ、その美声を発する男を見ていた。
 ライヴから帰った後、俺のムスコでガッツンガツンに掘られて、ヨガリまくってるソイツを想像するだけで5発ヌけた。想像だけで5連発って…新記録だな。
 男でオナった事も多少はショックだけど、それよりも、その男を好きになってしまったんだと気付いてからは、後ろめたさというか、罪悪感というか…。そんなもんに責められている。


 ゲイとの経験はある。
 男と初めてヤったのは5年前の18ん時だ。その頃は1日10回吐き出しても足りないぐらいの、悪魔のような性欲にとりかれてた。
 童貞は中1で捨てたし、ハーフという自慢のルックスのお陰で、それまで彼女もセフレも途切れたことはない。だもんで、定期的に性欲処理は出来てたけど、将来と言う壁にはばまれて、女の子たちは自然と離れて行った。
 その頃は…まさに地獄のようだった。今まで、ちゃんと役目を果たすことが出来てた俺のムスコにとって、経験したことのない試練が訪れた。
 我慢も限界が近づいて、無理矢理でも女とヤろうかって思い始めた時期に、たまたまの綺麗な顔をしたゲイが誘いをかけて来た。
 どーでも良いから何とかしてくれって状態のムスコの命令と好奇心で、取り敢えず流されて掘ってみたら意外とヨくて、ソレ以後も気分が乗ればゲイネコとヤったりもした。
 でも、今でも純粋に勃つのはやっぱオンナだし、付き合うのもそうだ。

 …そうだ。そうだよホント、俺はノンケなんだ。どこの神経回路が誤作動を起こしてんだ?冗談じゃない。ヤバイんじゃないのか?俺…。
 今は昔と比べて、性欲も多少は落ち着いてきた(多少はな)。だから、まかり間違っても初めて見るパンク野郎相手にヌいてしまうなんて…ありえない。

あぁっ!!ありえね〜〜〜!!!

 まぁ確かに、そのボーカルは女顔のスゴイ美人だった。正直、この世にこんなに美しい人間がいるのか、って思った。ライヴ用のメイクも手伝ってか、小悪魔的な美貌と言う感じた。そんでその顔に似合いの細腰と、汗で白い肌に貼り付く黒髪も色っぽかった。華奢きゃしゃな体つきから想像するより、少しハスキーな声がまた魅惑的で、その声が上ずるのを聞いてみたくな……
っっって!!違うだろっ!俺っ!自分で自分をあおってどーすんだよ?!
重症だ。パンクのガンガン鳴り響く音に侵される様に、俺の脳ミソもグチャグチャになってしまったんだ。きっと。
 目の前で歌ってたアイツは男だ。筋肉質ではなかったけど、骨ばった体つきだったし、細身のダメージデニムで包まれた下半身もそれなりに男を主張してた。厚手のコートでも着てない限り、女と間違う事は無いだろう。

じゃあ、何故だ?

 なんで俺はヤりたいなんて思ったりしたんだ…。
やっぱ俺はゲイなのか?いや、違うか。この場合はバイになるのか?って言うか、コレは恋なんだろうか…やっぱり。
 確かにライヴに来てる女なんかそっちのけで、視線はアイツに釘付けだったし、その後もずっと俺の脳ミソをあの男が支配していた。パンクなんてあんまり興味無かったのに、アイツの声が忘れられなくて、帰り道には『パンクも良いな』なんて思ってしまった。
 家に帰ったら帰ったで、『次のライヴいつやるんだろう』とか、『通い詰めたら俺の存在に気付いてくれるだろうか』とか、『やっぱ恋人いるのかな』なんて、そんな事ばっかり考えてて一睡も出来なかった。
…しかもオナってたし。
 そう言えば、昨日はテンパってて気が付かなかったけど、ダチに言えばまた会えるよな。会って嫌われたらどうしよう…。

恋…なんて、一生すること無いと思っていた。
付き合った女はもちろん好きにはなったけど、可愛いと思う程度で、『身を焦がす様な切ない恋』なんてのは経験したことが無いし、そんなのはただの幻想だと思っていた。激しい心の乱れは、自分も周りの人間も不幸にするだけだ。
現に俺は、くだらない大人の妄執もうしゅうで、不幸な人生を歩んできた。
駆け落ちをしてまで結婚した両親は、深い傷だけをのこして俺が小学生の頃、他界した。
昼ドラも真っ青の、馬鹿みたいな事情でだ。
だから俺は、意識的、無意識的に深く誰かを愛することを避けてきた。

なのに…
何故だ?
ヤりたいだけじゃない。俺の存在を知って欲しい。
俺を見つめ、笑いかけ、触れて欲しいなんて思ってしまう。
俺だけに…俺だけを…、感じて欲しい。
誰かが、こんなにも俺の心を支配した事なんて無い。
ましてや相手は男の上、喋ったことすらないのに…。
出逢であうべくして出逢ったのか。これが巡り逢いというヤツなんだろうか…。

母さん…
あんたもそうだったのか?
怖いよ。
あんたみたいになるのが。


 ずっとうつむいて、モヤモヤと考え込んでた俺は、新たな客が入って来たのに気付かず、
「あの、ナチっぽい軍服ってありますか?」
と、話しかけられ、初めてその客の顔を見た。そして、その顔に釘付けになった。

 この店は、俗に言うアダルトショップで、避妊具から大人のオモチャに始まって、ハードなSMグッズやコスプレ商品も売っている。もちろん、あらゆる客に対応出来るよう、ゲイ・レズ用な物もバッチリ置いてるし、脱法だっぽう媚薬びやく・セックスドラッグも豊富にあるから、なかなか繁盛してる。
 しかし店柄、笑顔でニコニコ対応なんかせず、ジロジロ客を見るのも御法度ごはっとなのだか…。
 目を逸らすことが出来なかった。


なぜなら…

そこには…

紛れもなく…

昨日のアイツが居たからだっ!!




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