《Act.12 ほんとの気持ち》


浴室に連れ込まれたかと思うと、シャツを着たままシャワーを浴びせかけられた。
凱斗は、濡れた自身のシャツを脱ぎ捨てながら、オレを壁際へ追い詰めて来る。またキスされるのかと思って、無意識に顔を背けた。
「なに、嫌?契約反故ほごするつもりか?それとも…、ここにして欲しい?」
「ッ…」
ヌラリと、首筋に濡れた感触がして喉がヒクついた。チュクっとそのまま吸い上げられ、ツキリと痛みが走る。
「ん、ッ…」
その舌は、ぬめる透明な轍跡わだちあとをオレの肌につけながら鎖骨に向かい、そこを歯で優しく辿たどられた。
「…っは…ぁ…っ…」
その間も凱斗の手は、オレの脇腹や太股をせわしなくまさぐり、密やかで絶え間無い快感をオレの躰に送り続ける。
「ん…ぁふ、ぅ…ッあ」
シャワーの蒸気と甘い興奮に頭が痺れ、抵抗する事も忘れてしまう程、与えられる快感に躰がほてった。
「シャツ、気持ち悪いだろ?脱げよ」
凱斗はそう言うと、裾を捲り上げてきた。
すでに抗う気力も無く、脱がされるままになる。素直なオレの反応に凱斗はクスリと笑い、軽いキスを繰り返す。
…凱斗とのキスは嫌いじゃない。むしろ好きかもしれない。
身体中を揺さぶられる様な…こんなキスは凱斗が初めてだ。
何でこんなに気持ち良いんだろう?やっぱり、好きだから…?なのかな。
凱斗の大きな手、筋肉質な体に広い肩幅、彫りの深い男らしい顔…。セクシーだと思うし、羨ましくも思う。凄くカッコイイ。
でも、性的興奮は、見てる分には起こらない。
好きなのか、そうじゃないのか…。考えれば考える程、戸惑いが増すばかりで答えは出ない。

刺激に反応を返しながら、トロトロと自分の世界にトリップしていると、急に下半身に甘い衝撃が走る。
「あぁっ!あ…は、ぅっ」
いつの間にか凱斗は屈み込んで、オレの股間に顔を埋めていた。
「うっあ、ぁぁ…やッ、やはぁッ」
ヌクヌクと根本からいただきへ、強弱をつけながら何度も往復する。
的確に射精をうながすその動きに、早くも限界を迎えそうだった。
「あ、あぁっ…、んっ、あッ、か、凱斗っ…だ、めっ、そんなッッしたら…駄目ッ」
オレの声に、終わりが近いことを察したのか、今度は手淫を加えながら鈴口をキツく吸われ、裏筋やカリの部分を重点的に攻めてくる。
「アッ!ああぁぁっ…やっあぅッ…っっ、あぁっ」
ソコにばかり意識を集中していたら、不意に後孔に鋭い快感が与えられた。
「んあっ!やだっ!やあっ…っああッ、はっぅ」
ニュプッと指が入って来る。何かをジェル代わりにしているのか、大した抵抗感も無くチュプチュプと水音を立てて単調に挿入を繰り返す。
その焦れるような快楽じゃなくて、あの強烈な官能をもたらす場所を触って欲しくて、自然と腰がうねった。
けれど、そこには触れて貰えず、凱斗はむず痒いような刺激しか与えてこない。逆にペニスへの刺激を強め、フィニッシュへ向かわせようとする。
「だ、めぇっ!や、やあぁっ…ああっ、も…出るッ出るぅっ!…ァッ…ッ……っ!!」
ドクドクとペニスが脈打ち、白い精を送り出す。凱斗が深くオレ自身をくわえたまま、ゴクリとそれを飲み下すのが喉の動きでわかった。

…!!

「のっ、飲んだんだ…」
ビックリして凱斗を凝視すると、クスッと笑って凱斗はシャワーヘッドをいじり始めた。
「だって、もったいないじゃん。響介が感じてくれた証拠だろ?」
「……………」
いちいち、表現の仕方が恥ずかしいっつーの!!
何だってこの男はこんな言い回しをするのか。言ってて自分で恥ずかしくないんだろうか?
気付くと、さっきから凱斗が触っているシャワーが、いつの間にかヘッドを外され、ホースだけになっている。
何だか嫌な予感がして、凱斗に尋ねた。
「…ソレ、どうするんだよ…」
「コレ?知らないか?こーすんの」
言うが早いか、鮮やかなぐらい手際よく、凱斗はオレをくるりと回転させて足首の内側を軽く押し蹴り、腹に腕を回してグイっと引いた。
…つまりオレは今、壁に腕を着き、脚を開いて尻を凱斗に向けて突き出す格好になっている。
アッと言う間の出来事で、間抜けにもオレは「え?…え??」と言っている内に、そんな事になっていた。
恥ずかしいと思う暇も無く、自分の状態を認識した時には、既にホースをアナルに突っ込まれていた。
「!!!!!!!!」
予想を遥かに上回る行動に、あまりにも衝撃が強く、オレは声が出なかった。
「これ、シャワ浣って言うんだよ」
ぬるい液体が直腸に注ぎ込まれる何とも言えない感触に、オレは口を引き結び、じっと耐える。
「……ッ……ッ…」
怒るとか、抵抗するとか、もうそんな事を思い付くほど正気じゃなく、屈辱に涙しか流れなかった。
「ウッ…」
ヌポッとホースが出て行く。ホッとするのも束の間、今度は注がれた液体が流れ出る。とどめる為に孔口を締めようとしても、凱斗の脚に阻まれてそれが出来ない。
グッと下腹部を腕で押された。タラタラと流れていた湯が、ビュルッと音を立てて吹き出る。
「嫌っ!嫌だーっ!!やめっ、見るなっ!見るなぁッッ!!」
悲鳴に近い声で叫ぶ。
「…何も出て来ないな。本当にちゃんと食べてんのか?」
事も無げに凱斗は言うと、またホースを突っ込んてくる。
オレはボロボロ涙をこぼしながら、なすすべも無くされるがままになっていた。
「…っ…ぅ、うっ…っ…」
最初よりも多い量を入れられると、また腹を押され、強制的に排出させられる。
流れ出る液体と共に、オレの尊厳も流されていくような気がした。

「はい、終わり。良い子だったな」
その苦行が終わると、凱斗はニッコリ微笑んでオレの頭を撫でる。
もう何も言えない…。
激しい恥辱に茫然自失になっているオレは、促されるまま脱衣場に出る。凱斗サイズであろう、ブカブカのバスローブを着せられ、ドライヤーで髪を乾かされる。
バスローブだなんて…。普通、着ないだろこんなの。
暖かい風を浴びて、ボンヤリしていると、洗面台の脇に置いてあるフレグランスの瓶に目が止まった。シャネルのエゴイストだ。
…似合いすぎてて笑えない。

「響介…」
名前を呼ばれ、鏡越しにオレをはずかしめた男を見る。目が合うと、後ろからギュッと抱き締められた。
「何だよ…?」
凱斗はオレの頭に頬を乗せて目を瞑り、長い沈黙の後、「愛してる」と、低く呟いた。

「…凱斗……」
その言葉は、さっきまでの屈辱や羞恥なんて全て押し流してしまうほど、オレの胸を震わせた。
触れている部分から暖かな熱が染み込んでくるようで、凱斗の傍に居ることが心地好く感じる。
「…なぁ、凱斗。…オレ、お前がオレの事想うみたいに、…お前の事好きになれないと思うよ…きっと」
オレの言葉を聞いて凱斗が顔を上げる。目に映る顔は穏やかで、微笑みを浮かべていた。けれどその瞳は、諦めに似たどこか暗い光を帯びている。
「わかってるよ。響介に愛して貰おうなんて考えない」
考えない…って…。どういう意味?
その言葉にオレの心がザワザワと騒ぎ始める。
眉をひそめて鏡に映る凱斗をみると、肩を掴まれ、振り向かされた。
「だからせめて、身体だけは俺のものにする」
顎を掴まれ、きつく口づけをされた。その唇は熱い吐息を吐きながら、ゆっくりと離れていく。

カラダだけ…?
やっぱり、ヤりたいだけなのかよ。
その残酷な現実が、波紋のように黒く全身に拡がり、心臓をギュッと掴まれたかのように息苦しくなる。

次第に視界がぼやけ、オレの目から熱を持った雫がこぼれ落ちる。
「体、だけで…良いのかよ?オレの、っ…心は…いら、ないのか?」
知らない内に、唇が震え嗚咽おえつが込み上げてくる。
なんとか声を絞り出すその間も、止めどなく涙は頬を濡らし、喉を伝い落ちていく。
まるで切なさが心を切り裂き、溢れ出てくるように。

気が付いた。
ようやく。
遅すぎたのか?

そんな事あるわけ無いって、自分に言い聞かせるのに必死で、 誤魔化してばかりで。
好きになれないなんて、また凱斗を傷つけるような事を口にして。

こんなにも好きになってた。
自分が傷ついて、ようやくわかるなんて、オレって本当に馬鹿だ。

涙をこぼすオレを見て、凱斗の瞳が切な気にまたたく。
「…怖いんだ。無くすのが。だから最初から望まない」
「凱斗、オレは…オレは…」
強く抱きすくめられて、熱に浮かされたように頭がぼうっとする。

触れる唇が切なくて。
触れる肌が愛おしくて。
触れる心が苦しくて。

あまりにも狂おしい。

もう誤魔化さない。自分に逃げ道なんか作らない。言い訳なんかしない。
だから、オレの心はいらないなんて言わないでくれ。
愛してるって…言ってくれたのは、抱く為だけの甘い嘘だったのか?
オレはこんなにもお前にかれているのに。

「もう、遅いって…。オレはお前の心が欲しいよ…」
凱斗の耳元で、震えを押さえてそっと呟く。掠れる自分の声がもどかしい。

オレの決死の告白に、凱斗はギクシャクと少し体を離し、強張った表情で低く言う。
「自分が何言ってんのかわかってんのか?…そんな事言って、後悔するぞ?」
「…でも、もう好きになっちまったんだからしょうがないだろ。自分でも訳わかんねーよッ。どうしてお前みたいな自己中男、好きになったのかっ。マゾでもねーのに、なんで襲われても好きになってくんだよッ?!」
ってか、なんでこんなベラベラ告白してんだ!
あぁっ!!猛烈に恥ずかしくなってきたっ!!
火が点いたように一気に真っ赤になると、いきなり肩を掴まれた。
「俺、もう駄目かも…」
「駄目って…な」
何が?と言おうとしたら、まるで荷物の様にヒョイと担がれた。
「何すんだよっ!」
「決まってんだろ。キスの続き。もう我慢出来ないから」
駄目って、そういう意味かよ?!




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