《Act.3 視線の先は》


『あっ!こいつ…』
オレはすぐに、目の前の店員が、ライヴに来てたあの客だとわかった。

 しかもまた見られてるよ。無言で。
なんでジロジロ見てくるんだ、この男は!
あっ…軍服なんてあるか聞いたのが間違いだったのか…。
思わず頬が熱くなる。

 昨日、ベースの翔太しょうたが「次のライブで軍服着てみたい」と馬鹿みたいな事を言い出し、新しいギターの駿しゅんが悪乗りして賛同した。
 嫌がるオレを尻目に、洸司までもが「友達の居るアダルトショップで、軍服を見掛けた事がある」と言いだし、結局ゴネるオレを無視して、とりあえず着てみる、と言う事になってしまった。
 …そして買い出しジャンケンで負けたオレがこんな怪しい店に来た、という訳だ。
ジャンケン弱すぎだろ、オレ。


 「あ、あの、ライブで着るから…。そーゆーの、あの…ココに置いてるって、友達に聞いて…」
恥ずかしさでたどたどしくなってしまって、余計に赤くなった。
「あります。」
店員の答えにホッとする。
「でも今、在庫切れで…。取り寄せましょうか?」
誰が買うんだよ、そんなの…。と、思いつつ、「お願いします」と返事をした。
「じゃあ、こちらに名前と電話番号、お願いします」
言われてメモ用紙に書き込む。
 その間、店員は後ろを向き、どこかに電話をしていた。オレは書き終えてペンを置き、ふとその店員の背中を見る。
やっぱスゲー筋肉質だな…。ちょっと羨ましい。
 お返しとばかりにジッと見つめていると、クルリとその店員が振り向き、バッチリ目が合ってしまった。
見てたのバレたかな…。また顔が赤くなってくる。
「えーと、本店に在庫あるみたいなんで、2、3日後には入ると思います。Mサイズ?」
「は、はい」
赤くなった顔を見られるのが恥ずかしくて、うつ向いて渡したメモを見ていたら、突然「キョースケ」と呼ばれた。

「はっ?!」

思わず顔を上げた。
「って、読むんですよね?」
真っ直ぐに向けられる視線に、なんだか居心地が悪くなる。
「はぁ、まぁ…」
「なぁ、響介って昨日のライブのボーカルの人だよな?」
いきなり馴れ馴れしくなった男にムッとする。なんで初対面のヤツに呼び捨てらんなきゃなんないんだよ!しかもオレ、客だし。
「…そうだけど」
嫌悪感をあらわにしてそう言うと、ソイツは思わず見惚れてしまうほどの笑顔をオレに向け、
「俺、ドラムの洸司の友達なんだよ」
と言った。
「あ…、洸司の言ってた友達って…」
「聞いてる?俺だよ。凱斗って言うんだ。ヨロシク」
洸司の友達だと聞いてちょっと安心する。ダチってことは、年上だよなぁ?
「カイト、さん…」
「呼び捨てで良いよ。あー、聞かれる前に言っとくけど、外国人じゃなくて、日本国籍のハーフ」
外国人じゃなかったのか…。それにしても日本人の面影無いな、この人。
「な、俺もうすぐ上がりなんたけど、これから遊びに行かない?」

…あぁ…

ダメだ。

 こう言うタイプの人間は苦手。馴れ馴れしというか、図々しいというか…、軽い人間は嫌いだ。
 オレはすごく人見知りで、人とコミュニケーションを取るのが苦手な上、プライベートで連絡を取って友人関係を続けて行く、というのが出来ない。だから友達も今はバンドメンバーしかいない。
 んで、そんなオレに、出会ったばかりのこの人は遊ぼうと言う。
遊ぶって何?何したら良いわけ?会話も絶対続かないだろーし、気まずいのは勘弁だ。
「あ…いや、これからオレ練習あるし…」
「そ?んじゃ練習ついてって良い?」
良いわけねーだろ!!
思わず無言になってしまうオレ。
「…え〜と、それじゃ練習終わってから呑みに行かない?」
行かないって!いーかげんにしてくれ…。何でこんなに強引なんだ。
「今日は忙しいんで無理です。取り寄せお願いしときます。それじゃ」
こんな時はとっとと逃げるに限る。
 オレは返事も聞かず、店を飛び出た。

その男のすがるような視線を背中に感じながら…




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