《Act.4 再びの出会い》


「響介、今日俺ん家で晩飯食わないか?」
練習が終わって貸しスタジオから出ようとした時、洸司に声を掛けられた。その洸司の横で、駿がニコニコして立っている。
「僕も行くんだ。シーフードパスタだって!」

駿は可愛い。ついこの前16歳になったばかりで、顔だけ見ると小学生のようにも見える。親を早くに亡くし、売り専をやって生活してたらしいが、最近は店に出てないみたいだ。
次のギタリストを入れるのに、本当はオレが前から上手いなと思っていた従弟いとこに声をかけようかと思ったんだけど、駿の音を聴き、速攻で彼を入れる事にした。

「質の良いカラスミが手に入ってさ。どうだ?」
洸司の誘いなら断る理由も無い。それに最近まともなメシも食ってないし。いいよ、と返事をして洸司のアパートに向かった。

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食材を買い込み、ついでに酒も買った後、アパートに着いた。


…何だ?

洸司の部屋の前に、何か居た。
見たことのある物体がドアの前を占拠している。
ソレはのそりと立ち上がった。
足を止め、ソレを凝視しているオレの横で、洸司が声を掛ける。
「お、凱斗。待たせたか?」
呼び掛けられた男は、洸司に「いや、今来た」と返事をした。それから不意にオレの方へ顔を向け、ニコリと微笑む。
その、誰をも魅了できるであろう、とろけるような笑顔に心臓がビクリとした。

…?
そっと手を胸にやる。

自分の反応が不思議だった。


「ま、入れよ」
洸司がドアを開けてうながした。
ドヤドヤと部屋の中に男4人が雪崩なだれ込む。
オレはキッチンに食材を置き、「料理は任せた」と洸司に押し付けて、ソファーに落ち着く。一足先にビールを開けると、駿が寄ってきて、オレに腕を絡ませながら言った。
「凱斗さんってカッコイイよねぇ!僕、思わず抱いて下さいって言っちゃった〜」
「ッ!ブフォッ…」
漫画のようにビールを吹き出してしまたった。いつの間にそんな会話を…。
「ゲフッ…ゲホッ…」
「うわっ響介、汚いよォ〜」
誰のせいだ、誰の!
「だっ、だ、いて…って…。まだウリやってんの?」
「んーん!僕、ガタイ良い人好きだから、凱斗さんならタダでも良いやって思って〜」
ヘラヘラ笑って駿が言う。「アレ、スッゴイでかそうだよねっ♪」と、同意を求められて目眩がした。
あぁ、オレの知らない世界が広がっていく…。

駿はゲイだ。
洸司はバイらしいが、彼女しか見た事がない。ベースの翔太はオレと同じストレートで、同棲中の彼女がいる。
まぁ、音楽界ではバイもゲイも別に珍しくはないから、偏見は無いけど、こんなにあからさまなゲイの知り合いはいなかったから、少し戸惑いを感じる。

「なになに?俺の話?」

最悪なタイミングで凱斗が輪に加わる。そんな話をしていたから、どうしても目線が………ソコへ向いてしまう。
まぁ、そりゃこんだけガタイ良くてナニが小さいワケないだろーな。
そんな事を考えてると、駿がダイレクトに聞いた。
「凱斗さんのペニスって何cmぐらいあるのぉ?」
耳を疑った。常識的に考えても初対面でそんな事聞かないだろ!!
冷や汗をかくオレを横目に、凱斗が
「さぁ〜?正確に測った事無いからなぁ。ん〜…20ぐらい?」
とサラリと言った。
えぇっ?!20って…20って…センチメートル?
ついソコを凝視してしまった。
「見る?」
「…ッ」
あまりにもな展開に言葉を失う。どれだけ自信あるんだコイツ…。変態か?
「キャー!見る見るうッ!!」
隣で駿が黄色い声を上げた。暗い目をして凱斗をチラリと見たら、
「ははっ、冗談だよ」
と笑った。
ドン引きするような冗談を言うなっ。
「えぇ〜っ残念。今度見せてね!二人きりでねっ」
語尾にハートマークが付いてるように聞こえるのはオレだけだろうか…。
「ねぇねぇ、凱斗さんって何してる人なの?」
エロ屋の店員だよッ。と、心の中でツッコんでみる。
「あー、色々。一応、本職はモデルだけどな。アダルトショップでバイトもしてるし、前はAVもたまに出てた」
モデルだったのか。それにしてもAVって…。何してんだよ。
呆れた顔で凱斗を見やると、何故か気まずそうだった。
「今はもうしてないよ」
何故オレに向かって言う。
「AVって、ノンケ用ぉ?」
「まーな。1本だけゲイ用のも出た事あるけど。金が良かったから」
コイツもなのか…。
こんだけ囲まれると、ストレートの方が人口少ないんじゃないかって思えてくる。

それにしても、この二人の会話について行けない…。何だかグッタリして、洸司の様子を見に行く事にした。


「どー?進み具合は。手伝おうか?」
洸司に声をかけると、茹でたエビをつまんだ。
「もうすぐ出来る。鍋のパスタ、ちょっと混ぜてくれるか?」
「わかった」
「…お前が料理を手伝うなんて、差し詰め、あの二人から逃げて来たってトコか」
いきなり図星を突かれてしまった。
「まーね。オレとは住む世界が違うよ。言葉が宇宙語に聞こえる」
パスタをかき混ぜながら言う。洸司は苦笑いして、
「二人とも良いヤツだよ。ただ、人一倍エロいだけで」
と言った。
ソコが困るんだよ!
「あの凱斗ってヤツ、どういう関係で知り合ったんだよ。」
「ん?凱斗が気になる?」
「…や、何となくだけど」
だって何か、洸司と凱斗の共通点が見当たらないんですけど。
まさかまさか、洸司までAVに出てたりしないよな?お願いだからお前だけは普通のヤツでいてくれ!
オレの心の願いも知らずに、洸司は手際よく、茹で上がったパスタをソースの入ったフライパンに入れた。
「俺さ、昔ちょっとだけモデルやってて、そん時知り合ったんだよ。タメだし、話も合うからそれ以来仲良いんだ」
話、合うんだ…。何となく凹んだ。まぁ、AVやってたなんて言われないだけマシか。
でも、待てよ…?
「そーなんだ?それにしてはオレ、今まで凱斗の事、見たこと無かったけど」
「あぁ、そう言えばそうか。ま、アイツ前までしょっちゅう仕事で海外行ってたから。今は国内の仕事しかしてないみたいだけど」
「ふーん」
海外の仕事って事は、それなりに有名なのかな?なんか、見てみたい気がする。モデルやってる所。
「さ、出来た。これ、運んで」
「あっ、うん」


「―でさでさぁ、その客がすっごい変態でぇ〜」
カラスミパスタはとっくに食べ終わり、さっきから駿が猛烈な勢いでエロトークを繰り広げてる。他の二人は爆笑しながら耳を傾けているが、オレは少しうんざりして、会話に参加せずにずっと酒ばかりあおっていた。
飲んでいる量がいつもより多いせいか、結構酔いが回っている。
その勢いを借りて、駿の声に被るように言ってみた。
「凱斗のモデル写真が見てみたい」
さっきまで無言だったオレがいきなり声を出したのにびっくりしたのか、少し、シーンとなってしまった。
なんだぁ?オレが喋っちゃいけないのかぁ?
少しムッとして、更に大声で言ってみる。
「凱斗のモデルしてんの見たい!」
洸司が心配そうにオレを見る。
「響介…。かなり酔ってるだろ。…って、あぁっ!!」
おもむろにオレの抱えていた一升瓶いっしょうびんを奪い取った。
「ほとんど空だよ…。結構残ってたのに。大丈夫か?お前…」
「んーなぐらい大丈夫だっ」
大丈夫だ、が「らいじょぶりゃ」ってなってても、大丈夫だ!オレは今、アルコールと言うスーパーヒーローを味方に付けてるから無敵なのだ。
「写真、無いのかぁっ?!」
ビシィッと凱斗の額を指差し、あごを反らして言う。
「あー、確か今月のメンズ雑誌に載る予定だけど…。コンビニだったら置いてるかも」
「おぅ、じゃあ買いに行こーぜっ!オラ、さっさと立てよっ」
無理矢理に凱斗の腕を取って引っ張って行く。金ねぇから、雑誌おごらせよっと。




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